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『西郷どん』“ダメ大河”一直線…言ってはいけない「禁断の台詞」を使ってしまった!

文=吉川織部/ドラマウォッチャー
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 鈴木亮平が主演を務めるNHK大河ドラマ『西郷どん』の第28話「勝と龍馬」が29日に放送され、平均視聴率は11.1%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)だったことがわかった。

 いきなりダメ出しになるが、まずこの「勝と龍馬」というサブタイトルがあからさまな「釣り」だったことを指摘しておきたい。確かに、勝海舟(遠藤憲一)も坂本龍馬(小栗旬)も登場したし、勝は西郷吉之助(鈴木)に大きな影響を与えたようだ(後述する)。だが、龍馬はいきなり出てきて西郷にガラ悪く絡んだだけで、なんの意味もない登場に終わった。

 それに、今回で話の中心となったのは第一次長州征伐の顛末であって、「西郷と勝海舟・坂本龍馬の出会い」ではない。それなのに、あたかも幕末の有名人2人が話のメインになるかのようなサブタイトルで視聴者の関心を集めようとするのは、少々さもしい気がした。

 だが28話には、こんなことがどうでもよく思えるほどの地雷が埋まっていた。それは、西郷が一橋慶喜(松田翔太)と会談している場面で突然やって来た。慶喜は、長州藩の力が弱っている機に乗じて一気に叩き潰そうと主張する。ところがその瞬間、「お待ちください!」と言うや否や、ふすまをさっと開けて入ってきたのが、慶喜の側室であるふき(高梨臨)。「勝手に入って来るな。黙れ」と慶喜に一喝されるもまったく引き下がらず、「また戦をされるのですか」と食ってかかる。

 慶喜の家臣たちがふきを力ずくで下がらせようとするなか、ついに彼女は禁断の言葉を口にしてしまう。

「お願いです、戦などおやめください!」

 これは、登場人物が口にした時点で大河ドラマファンに「ダメ大河」と認定される、恐ろしい台詞なのだ。「戦はいやだ」「もう戦などしたくない」「戦のない世の中にしたい」など、いくつかバリエーションはあるが、筆者もこの種類の台詞は大嫌いだし、そのような台詞を登場人物に言わせる大河ドラマも、基本的には評価していない。

 その理由は、主にふたつある。ひとつは、「戦は良くない」というのは現代的な価値観だからだ。もちろん昔の人だって、戦争ばかりの生活よりはないほうがいいと思っていただろうし、別に楽しんで人を殺していたわけでもないだろう。だが、「戦争=悪」とか、「戦争だけは絶対にいけない」というような価値観は持っていなかったはずだ。歴史ドラマに現代的な価値観を持ち込まず、当時の人々の心情を率直に描いてほしいと思う。

 登場人物に「戦はいやだ」と言わせる大河ドラマがダメな理由のふたつめは、それが安易な手法だからだ。脚本家が「戦は良くない」「戦は悲惨だ」というメッセージをどうしても伝えたいのなら、それを台詞ではなくストーリーを通して視聴者に伝えるべきなのだ。2017年の『おんな城主 直虎』は、必ずしも一般には評価されなかったが、大河ドラマファンにはこの点で支持されている。つまり、登場人物に「戦はいやだ」といった台詞を一度も言わせなかったのに、戦争がもたらすさまざまな苦しみや悲しみをリアルに描き出すことで、視聴者に「戦はもういやだ」と感じさせることに成功したからだ。

 その点、『西郷どん』では戦争が与える影響をどう描いたかといえば、長州兵が少し殺されたのと、焼け野原になった京の町が映し出されたのみで、戦争の悲惨さが十分描かれたとは言いがたい。だから、その流れでふきが「戦などおやめください!」と訴えても、見ている視聴者には実感として何も伝わらず、薄っぺらい台詞として流れていってしまうのだ。

 さて、西郷はそんなふきから「西郷様ならか弱き民の気持ちがおわかりにないもんそ?」と迫られる。これに対する西郷の答えもよくわからなかった。冷たい目で彼女を見据え、「口を慎みなされ。ここはおなごの来るとこじゃなか」と一喝したのだ。

 視聴者にはあまり伝わっていないが、NHKによれば、すでに西郷は「革命家」として覚醒したらしい。もし、今回のふきへの冷たい態度が、革命家として生まれ変わった西郷を具体的に表現するためだったとしたら、これまた安易だ。誰にでも優しく、特に女性には優しかった西郷が、「そんなことを口にするとは……」という驚きを視聴者に与えたかったのだろうが、取って付けたようで非常につまらない。

 さらに言えば、ここで西郷のブラックな面を描写した意図もわからない。「いよいよ西郷がブラック化したのか」と思わせておいて、「戦を避けたい西郷が、交渉によって長州との戦闘を回避した」というホワイトな結末になったからだ。そう言えば、冒頭では西郷ががれきの中から犬を助ける場面が流れた。「本当は優しくて好い人なんです」と、視聴者に印象付けるためだろう。

 ひとりの人間が優しい面と冷酷な面の二つを持っていること自体は、矛盾とは言えない。だが、このドラマからは、西郷をどんな人として視聴者に提示したいのかが伝わってこない。というより、ますますわからなくなってきた。こんなに戦が嫌いな西郷が、どうやって戊辰戦争を起こすのだろうか。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)

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